真宗葬送儀礼の淵源と成立 -蓮如期における「素型」の成立ー

 蓮如期の葬送儀礼 ―「葬中陰録」の世界―

 

 戦国期・近世教団、多数の葬送・中陰・年回・婚礼・誕生などに関わる「儀礼」を記録している・その中で「葬中陰記」・「往生之記」と呼ばれる葬送・中陰に関する記録が100点以上が確認されている。(首藤善樹本願寺諸事記目録稿」(高田短期大学紀要』№5 1987)

 

 ここでは、中陰録で最も詳しいと目される『真宗史料集成』第2巻で紹介されている分と、「実従葬中陰録」(願得寺実悟 記録、ただし未公刊・龍谷大学大宮図書館所蔵)と、証如「天文日記」・実従「私心記」より再構成した戦国期本願寺教団の一門衆の葬送儀礼を(中陰・納骨まで)時系列で紹介する。

 

 Ⓐ 1日目 臨終の際には、寝所に「臨終仏」(金襴・絵像)が掛けられ、前卓は「三具足」(樒を立て、蝋燭は白色)

臨終仏は、中陰中に「寿像」(影像)が完成した際に掛け替えられ、寿像が加わった中陰壇となる。

 Ⓑ 2日目 沐浴(湯灌)・剃頭を行う。

(※ 大坂本願寺「寺内」の場合は「御堂衆」が本寺より遣わされて剃頭している。門徒や臨終を覚悟し「入道」、女房衆が住持の死去にあたり「後家尼」、女房衆が臨終にあたり剃頭し法体となる場合(形式的には、「臨終出家」)も「御堂衆」が遣わされている。

Ⓒ 装束を、白衣(白帷)・直綴・五條袈裟・木念珠に改める。頭北面西で寝所おいて臨終勤行。畳を敷いて、上に「莚」を敷き遺体を安置する。(臨終勤行以前の寝具については不明。臨終勤行の前は、日常に使用している寝具か?)枕は「石枕」。顔には白布を二重折にて掛ける。

臨終勤行は、「正信偈(早引)・念仏(百反、七十反など)・回向、和讃(「弘誓チカラヲカフラスハ」・「娑婆永劫ノ苦ヲステテ」を引く。)(ただし、自坊=本堂での勤行は通常通りに行っている。)

Ⓓ 納棺、座棺で結跏趺坐させる。(棺の蓋の上には草書の名号=棺蓋名号=六字・八字・十字の三行)。蓋は紙を周囲に貼って封をする。

棺の上には七條袈裟。(畳んだままか、広げて掛けるのかは、実従の段階では不定であった。その際、蓮如の代から広げていたということで以後は広げる?。)

Ⓔ 3日目 葬送(出棺)。棺を御堂に移す。(御堂、上壇の際に畳を敷いて棺を置く。)前夜より本尊・開山御影の前机は、花足・打敷・本尊・御影の前に蝋燭を立てる。

 出棺(葬送)勤行。十四行偈・短念仏(50反)。調聲人と鈴は御堂衆より。

 Ⓕ 輿を下(外)陣の敷居の縁。勤行終了後に輿に入れる。輿に肩を入れる人数は4~10人程度。(近親者)

 Ⓖ 葬列。(輿カキは6人、寺中の非坊主衆・直綴・布帯・髪を後ろに括る。袈裟は掛けず、白袴を着用。輿の前は坊主衆、後ろは「色を着する衆(非坊主衆)」。

御堂より前庭へ出て、門から町へ、町場の道中には蝋燭が立てられる。(30丁~38丁)。先頭と後尾は提灯(4丁)。松明(火屋で使用・遺族2名)を先頭が持つ。(2人)

時(路)念仏。町蝋燭の最後のあたりで、火屋が近付いた所から、「時(路)念仏」を「サヽウ(作相)」にて始め葬(火葬)所まで勤める。調聲人・鈴は御堂衆(裳付衣・方織袈裟(鈴役は白袈裟)・水精念珠・銀箔扇)

Ⓗ 火屋の四方に蝋燭を立てる。火屋の前の「卓」の両脇に蝋燭2丁。打敷(萌黄緞子)・水引は白(絹)。花足12合・三具足・鈷銅・作花(紙花)・香合は黒。火屋には屋根と戸(扉)を造る。火屋の前には鳥居。(周囲に参列者のために、竹で作を作るというテキストもあり。)

Ⓘ 輿(棺)を火屋に入れ、七條袈裟を外し、遺族2人が松明で点火し戸を閉める。

火屋勤行。調聲人焼香・作相・正信偈(ゼヽ)正信偈の中程より焼香・短念仏(50反)・三重の念仏・和讃は「真実信心ウルヒトハ…」、寄讃は「恩徳広大釈迦如来…」・回向。

勤行後は帰路につく。火葬中は火屋より御堂へ戻る。(提灯・前卓等はそのままに帰る。)

 藁沓は鳥居のところで「脱ぐ」、「脱がず」の双方の記事あり。銀箔扇も「捨てる」・「捨てず」の記事がある。帰ってからの「勤行」はなし。

 Ⓙ 4日目 灰寄(棺の中には、抹香を下に敷き、脇へ入れ小藁を混ぜて入れる。近所には杉に青葉を灰に敷き、また、塩を少し物に入れ、酒も少し入れる。実悟が記録した「順興寺実従葬礼並中陰録」のみに記載。)

同日晩、収骨。首骨桶(白紙に「釈実従 永禄七年甲子六月朔日往生 行年六九歳」と書き出し添付。)墓所の四方へ蝋燭を立て、前机の脇にも蝋燭。前机は、打敷・三具足(花は櫁)。香炉と香合が前机には置かれるが、火はよく回るようにしておく。前机で収骨を行うが、収骨に使うのは竹と木を削った箸を用意し、箸に白紙で包んでも包まなくてもよい。火屋にはいる衆は、朝と同じように勤行を行い。ササウの際に調聲人が焼香し、正信偈の中途から参列者が焼香する。讃は「本願力ニ…」、寄讃は「無上涅槃ヲ証シテゾ…」、回向文である。尚、坊主衆は裏金剛を履いていく。

 

 Ⓚ 5日目  「中陰・納骨」

 

< 注記 『浄土真宗本願寺派 葬儀規範勤式集』。(編=法式調査研究委員会・勤式指導所、発行ー=浄土真宗本願寺派勤式指導所・本願寺出版部。 1986年初版、以後に随時に改訂版を発行。) ⇒ 素形となる戦国期の「葬中陰録」の記事との継承性と非継承性を検討する必要がある。>

 

(中陰・納骨の問題は別仕立てにするつもりである。墓制・骨の行方の問題)